テーブルテニスのゲームのレフィルについての覚書
『テーブルテニスのゲームのレフィル』
16曲、47分
すべて : 諭吉佳作/men

テーブルテニスのゲームのレフィルに言及しているメディア
●BRUTUS 歌う身体からそっと距離を置いて。諭吉佳作/menが、初のインストアルバムで出会った新しい自分
●Podcast番組『諭吉・皐月の超通信』第12回
●BIG UP! zine:Pick Up Artist ちょっとだけ現実から浮遊する、諭吉佳作/menの創作
アルバムについて
タイトル:わざわざ机を立てて、ラケットを介して球を打つ行為の、間接、それをさらにゲームの中でやる、電子、身体、間接、そしてその代替、間接。模造品、食品サンプル。また、口に出した時にリズムに乗らないことが不可能、他者の中に勝手にリズムを作る。
家の中で流れている音楽。流すというより、元々流れている、誰が作ったとも思わないもの。でも俺の癖がそのまま記録されている。流れていると、ただ綺麗に歩けるきっかけになるようなもの。普通に歩くと、綺麗に歩いて見えるもの。日常の存在をぶれさせるもの。
制作について
インストゥルメンタルを作ることは従来の俺にとって馴染みのないことだった。しかし今年の夏頃にしたインストゥルメンタルの仕事(まだ公開されていない)が思いの外とても楽しく、インストにはインストの自由さがあり、案外それは俺にとって自然な種類のことなのだと気づいた。それからインストを作りはじめ、作りかけの曲や書き下ろした曲を合わせて、アルバムの形にまとめた。
曲順は、"運転シリーズ"(俺ひとりでそう呼んでいる。末尾に「運転」とつくタイトルのもの。)によってほとんど自動的に決まったと言っていい。"運転シリーズ"はほぼ他の収録曲のサンプリングだけでできている。だからセオリー(とは?)通りなら、サンプリング元がひと通り流れた後でないと収録できないと感じていた。すると自然に、"運転シリーズ"3曲をばらばらに配置することは義務付けられ、それぞれのサンプリング元をそれ以前に並べていった。M.1「不注意を払う」だけはまあトランプのAのようなもので、ちょっと例外。
最近の制作について
俺はずっと音源もプラグインもLogic純正しか持っていないのだが、そもそもプラグインで音を変化させようと思い立ったの自体がここ数年の話だ。以前は、もともと挿さっているやつのつまみを触るくらい。(MIX以降はエンジニアの方にお任せしていた。)オートメーションはもっと最近だ。リージョンを消したり移動させたり貼り付けたりするときにいちいち「オートメーションはどうすんのさ」と聞かれるのがどうしても煩わしく、かついつか重大なミスをしそうだったためだ。設定や音量に変化をつける必要が出たらトラック自体を分けることでしのいでいた。マスタートラックを表示すればそこにもオートメーションが使える(すべきかどうかは別として)ということを知ったのも、今年だった。
もっと早くに色々と手を出していればと悔やまないではないが、それよりも、それでもまだ知らないこと、使っていない機能のほうが圧倒的に多いことにこそ慄く。もっというと俺はコマンドをキーボードで入力する以外のすべてを、トラックパッドで入力している。もう6年そうしている。トラックパッドはとても便利だ!iPhone時代の名残なのかもしれない。
関連して特筆すべきは、今回の制作、というか最近、ほとんどすべての曲で、本来ならボーカルにかけるためのLogic純正プラグイン(ここまで書いてしまえばもうたぶん3つに絞られるのだが)を楽器にかけまくっている。そのプラグインが大好きだ。それがなかったら俺はいわゆる品質みたいなことにとらわれて、アルバムひいて楽曲を完成とさせられないだろう。
たぶん俺は編曲の上で、やってはいけないとされていることをとにかくいっぱいやっていると思う。あえてやっていることもあれば、無意識にやっていることもあるだろうし、あえてなんですと言い張れる結果もあれば、普通に悪くしちゃっていることも、ぜんぜん、いっぱいあるだろう。
01 不注意を払う
制作中は、楽器1と呼ばれていた。一番早くに曲としてまとまっていた。2025年1月27日にはすでにDAWの画面を映した動画をTwitter(X)へ投稿していて、その時点でほとんど完成と同じような状態になっている。(まあその映っている一部分が、というだけで他は確認できないのであるが。)アルバムを意識せずつくった曲のひとつ。だからとにかく楽に、好きに作った。使っている楽器も少ないし、俺の中に元々あったものがそのまま出ているようにも思う。中学生のときに作った曲などにも近いところがある。こういうリズムにはすごく馴染みがある。メロディの推移など、すごく好きだ。なんかよくできた、……というのは一般的にではなく俺の好きなようにという意味で、よくできたと思う。
この曲に限らず、長い時間温めていた曲は、ようやくパッケージングしようとなると戸惑いがあり、題をつけるのにそこそこ困った。「不注意を払う」という言葉はこの曲のために思いついた題ではなく、元々俺の心にあり思い出したもので、それなりに大事にしたい言葉でもあったので、本当にこの曲がこの世にたったひとつの「不注意を払う」なのかという疑念について、俺が不注意を払った結果、偶然ついてしまったのかもしれない。
この曲に出てくるクローズドリムの「カンッ…カンッ…カカンッ」という連なりから卓球のラリーを連想して、アルバムタイトルになったのではという説がある。
02 風雨に送迎
楽器4と呼ばれていた。
こちらも、一部分は、アルバム制作前から作られていた。そのときは、ワルツ的なものを作ってみたいと思い立って作りはじめた。アルバム制作が始まってから、続きを作っていった。"ワルツ的なもの"という慣れない前提の中でも、触っているうちに、やはりドラムは歪ませなければ(好み)と思いはじめたりする。また、元々あった展開(0:36-1:37の繰り返されるメロディ)は前置きなしには入ってこられないと感じたため、以降の展開のMIDIを切り貼りし、すぱすぱと途切れては再開するような後付けっぽい(というのは実際にそうだからで、聴感が誰にとってもそうなのかはわからない)幾何学的なメロディに仕立て上げ、また人間的若干のテンポチェンジに乗せて、前置きとした(0:00-0:36)。それは、後述するM.10「gym」や"運転シリーズ"での編集とは違い、オーディオファイルとして書き出さずMIDIのまま切り貼りした。そのため、すぱっと一部分を抜き取って再配置したとしても、リリースやリバーブなどの余韻はカットされず、単にそういう譜面として演奏される。風雨に送迎は、あくまで実演っぽさを意識している。ちなみにこの"ぽさ"は非常に大きい。俺は今作で使ったほとんどの楽器の実物を触ったことがないし、どんな機構を持っているのか知らない。
しかし、(それをしたときにはこの曲はほぼ作り終わっていた気がするので、この曲の制作には特に生かされていないかもしれないが、)アルバム制作中、とある吹奏楽アレンジの曲の、パート練習用動画をYouTubeで見ていた。各パートのソロを耳で聴いて手でMIDIを打ち込むというのをやってみたのだ。楽器がたくさん鳴っているときにそれぞれのパートがどんなふうに別々の動きをしているのか、逆にどんなふうに同じラインをなぞっているのか、を知るということを、今になってはじめて実践したのだった。逆にいうとこれまでそういうのは一度もしたことがなかった。そっちのほうが変だとは思っている、自分でも。それで、その経験が、このアルバムの制作を含め、また以降の楽器の取り扱いに影響を与えていることは確実だが、結果変な癖をつけただけという可能性もある。でも面白いことにやはり、やる前と後では違っている。
03. machine (for you)
楽器3と呼ばれていた。が、原型はこれがいちばん古い。どうやら2年以上前からある。が、原型も何もほとんどは繰り返される音なので、完成形も大きくは変わらず、やはりいちばん早く形になっていたと言っていいのか?
この曲の元来の型みたいなものが、それだけですべてに思えて、余計なことをする気にはならず、トラックも展開も最低限となった。もともとはなかった要素として、途中ストリングスが入ってくるが、この曲においては彼らに音階を主張されると困るように思え、なるべくピッチ感は抑えめに、そういうのじゃない方向でいていただくというやり方になった。ストリングスに聞こえるのかどうかも怪しい。
俺は結構長いこと打楽器でメロディ(音階)のトラックを作ることにハマっているが、その最初の曲かもしれない。いや、もっと前からやっていた気もする。この曲では主にベースの扱いで使っているものと、アクセントで使っているものとある。
04. 三面図の踊り
諭吉佳作/men - 三面図の踊り (Music Video)
楽器2と呼ばれていた。こちらは、ストリングスのコードだけがそこそこ前からあった。そのときはエレクトロなものにするつもりはなかった。ストリングスと音色とその進行の通りに、100%荘厳な感じの音楽を作るつもりだったと思う。ただその発想のままだと進まなかった(置いておいていた)ので、当初の構想は捨て、ハイハットが細かく刻むはっきりした電子のビートに乗せてみたら、しっくりきた。それがなかったら確実に1:13からの展開もなかったはずなので、決断に満足している。1:21のメロディとその転調による展開を気に入っている。ピーピー鳴らすのも、癖(無意識、習慣という意味)のひとつだ。家電から合図の音が鳴ったかと思ったらこの曲だったと評判。
ミュージックビデオも制作した。まず、とにかく人物の三面図を飽きるまで描いた。絵柄違いで8人描いたら飽きたので、自動車の絵を描いた。それもその1枚で飽きたので、今度は静物の写真を三方向から撮った。3種類撮ったら撮れるものがなくなったので、アルバムのアートワーク用に作った3DCGモデルを1個、三方向から書き出した。静物が増えたら人物が足りなくなった気がして、3DCGで4人作った。その中に自分の間抜けな写真を忍ばせることははじめから決めていたので、間抜けな感じで三方向から撮った。
それらの画像を平面の3Dモデルにして、前面・背面(底面)・側面に分ける。前面を前に、背面をZ軸180度回転させ後ろにもしくは底面をX軸90度回転させ、側面をZ軸90度回転させる。計18個の半立体ができあがった!そしてそれらをペアにして向かい合うように配置し、オブジェクト同士の中心とその他の場所に軸を設定して個別のテンポでZ軸回転させる。するとフロアで自転と公転を繰り返すパーティが完成する。三面図の踊りというわけだ!
本来三面図はキャラクターであれ工業製品であれ、自分の考えやデザインを他者に伝えるために用意するものだが、今回描いたものにはそんな用途は何もなく、ただ三面図になるために生まれてきたものたちだ。
05. 暗転と歩行
楽器6と呼ばれていた。
俺は案外、フリーランスにしてはかなり規則正しい生活をしていて、昼夜逆転などは一度もしたことがないのだが、この曲は夜(やはりこれもまだ常識的な時間帯)にテンションが上がって(常識的な範囲の)夜ふかしをして、楽しい曲ができつつある☺︎と思いながら眠り、起きてもまだこの曲が自分にとって楽しいものであったことがすごくうれしかったと覚えている。
変な言い方だが、かなり好きな曲!この曲もシンプルな分、ほとんど癖(無意識、習慣という意味)と好みだけでできている。リズムの跳ね方や三連符へのなだらかな移行、電子的な音と弦楽器/金管楽器の取り合わせなど、とにかく癖が詰まっている。
昨年だったかに、心あるトラックメイカーの先輩に教えられ、サイドチェインというものを知った。(おまえ本当に何も知らないんだなと思ってもらってまったく結構です。)俺は「あれって人力じゃなかったんだ」と言って、そのときすごく感心したのだが、この曲ではまあめちゃ普通に乱高下オートメーションを書いている。
8月2日に"仮に、完全なループで、フレーズが一切変化しなくて、物理的に演奏されたものでもなく、一回目を打ち込んだらあとは労力なしだとしても、作るときの労力に関係なく、とにかく音楽が続いている間は聴いている自分の体も止めないでいられるということで、音楽が単に長いというのはいいことだなと"というツイートをしているが、それにはこの曲も当てはまる。インストのいいところというか、効能みたいなものを実感していた。(ツイート中の"あとは労力なし"というのは"だとしても"のために極論を言っただけ。) この曲は完全なループではないものの、どこを拾い出して繰り返してもいい、リフレインの快楽と、それで曲が続いていくということは自然なことで、むしろ曲が止まるときにこそきっかけが求められるのではというようなことを考えていた。
06. 逃走なら運転
諭吉佳作/men - 逃走なら運転 (Audio Visualizer)
サンプル1と呼ばれていた。"運転シリーズ"の一曲目。クリックとリズムトラックの上に、M.2-5のオーディオだけを切り貼りしてできた曲。
M.2-5といいつつ、聞いてパッとわかるメロディが使われているのはM.4「風雨に送迎」のみで、あとはだいぶ真剣に聞かないとわからないかなと思う。この曲には謎の疾走感があるなと思う。つぎはぎのリズム感、どの曲も原曲よりテンポが上がった上でさらに2倍速になっていたりもすることもそうだし、それによってかやはり「風雨に送迎」の木管楽器の音に不思議な張り切り感が生まれている。純粋に逃げているなと思ったための題だ。
"運転シリーズ"では、まずクリックとシンプルなリズムトラックを用意した。(それはシリーズ三曲にほぼ共通で、なるべく特別なことはしないというルールを課していた。)それから、それぞれの楽曲のオーディオ(ステムではない。一本にしてある)のキーとテンポを揃えた(揃えていないものもある)。あとは好きなところを抜き出して、ループさせたり別の箇所や別の曲とクロスフェードさせたりしながら繋げていく。0.5倍速や2倍速になったりもしている。それ以上もあるかも。もちろん必要に応じてエフェクトプラグインなどはかけている。
ただ、あるものの中から探さなければならないのでかえって自由度が低かったりもする。オーディオにしてしまっているので再生しないとどんな音か分からず、ステムじゃなく2mixなのでメロディだけがこの展開にそぐうのだと感じても、勝手にドラムのものすごい音がついてきたりする。(それがいい。)めちゃくちゃ手探りで、一から作るよりもよほど効率が悪いというか、やりたいのにやりづらい、パズルのようで面白いが、いらいらするような作業だった!
俺は自分で作ったから、いくら回りくどい制作過程があるとしても、聞けばだいたいのことがわかるのだが、他者からするとこのような楽曲群がどう聞こえているのか、いまいち想像がつかない。パッと聞いたとき、サンプリングということがみんなにわかるのかどうかさえ、わからない。
07. そこで目が合う
楽器5と呼ばれていた。
もともとはこのリズムトラックに対してもっと明るく跳ねるような、たま〜に降った雪に喜ぶ、みたいなコード・メロディを乗せていたが、能天気さにムカついてしまい、音階のトラックを全部消した。でもやはりリズムはとても性に合うのでリズム残しで作り直した結果、こういう曲になった。現実そのものっぽい淡々と深刻な進行と、後半の浄化っぽい展開が、まさに当初と相反する形になったかなと思う。こちらは積雪のじっとりしたロマンと危険性が浮かんでくる。
前述の、ボーカルに使うプラグイン(本当に大好き!)をマスタートラックにかけているため、通底して途切れ途切れの音。これがフィジカルのアルバムだったら、ブックレットに"ノイズはそういう表現です"って書かなきゃいけなさそうだな、と妄想していた。
08. チャットのリズム
諭吉佳作/men - チャットのリズム (Music Video)
楽器10と呼ばれていた。
何も説明することがないくらいシンプルな曲。ウッドベースの音階のない音が好きなので、使った。弦をはじいて、音階がほぼ鳴り切った後の「ンーガッ」みたいな音だけを取り出してベースとして使っている。当然、本当は音階の鳴り始めたときがいちばん強く出ていて、「ンーガッ」はそんなに大きく鳴っているわけではないので、相当音量を上げている。とはいえ他の音と混ざって曲になると、それ自体だけを取り出して聞き取れる感じではない。まったく同じウッドベースの音源をウワモノとしても使っているからか、正直自分でも区別がつかない。リズムが入る前の、出だしから0:09までならかろうじて聞き取ることができる。ただ、聞き取れねえよ!と思ってそれを抜くと、急に低音がなくなるので不思議。(普通にMIXが上手くないからなのかもしれない。)
ずっと使いたかった音で、なんならこの曲はそれを使いたいという意欲だけで作りはじめた。のだが、よく考えるとそれってなんの音なんだ?弦がはじかれて止まる瞬間に、打音のようなものが出るのか?はじく瞬間に、弦がはじかれる音と、指がそれをはじく音がするのはわかるが……。
例えば鍵盤だったら、打鍵音が鳴るのは想像に難くない。(内部の弦のことは一旦置いておいて、)鍵盤に指が振り下ろされる音、鍵盤が沈んでぶつかる音、そして音階が鳴る、鳴り切る。この後に、鍵盤が戻ってきて元の位置に収まりぶつかる音がある。そのことは、明らかに物と物がぶつかる姿が想像できるので、理解できる。ちなみに俺この音が大好きだ。電子ピアノの電源を入れずに弾くと気持ちがいい。ああでもそうか、弦にも、留め具(?)があるわけで、上下の両端を何かで留められているわけだ。そうでなければ震えることができないというかまずはじくことができないのであって、留められていれば無論、留められている部分に多少なりともぶつかる瞬間があるはずなわけだ。振動が治まる瞬間に?その音なのか。まあでもあまり想像はできない。ギターなら触ったことがある。留められているんだから、それを無理にはじけば、当然当たっていることになるだろうという気持ちと、いや留められてんだからぶつかりようがなくね?という気持ちが、ある。それか撓んだ弦がビーンと伸び切ったときの音なのか。まあこれは今の俺が頭で考えたところで仕方ない……。
俺がいちばん頻繁に触れる"単独の楽器の音"はLogic純正の音源なわけで、それを楽器の音と思っているわけだが、(まあ実際の演奏を録音したものなのだからそれは間違いではないのだけれども、)それもなんだかな、と今はじめて思った。
このご時世に、なんでも調べればいいじゃないかと思うけれど、ウッドベースをはじいて余韻が消えるまで次の音を弾かずに待って、それを余すことなく録音して見せてくれる、そんな解剖みたいなやり方をしている演奏家YouTuberがいるのだろうか?結局、本物(比喩的なではなくそのままの意味)に触れるのがいちばんわかりやすいことは多い。普通のソロ演奏動画なども見てみたが、よくわからない!
話が脱線しすぎた。曲のことに戻ろう。鐘の音みたいなのが入っている(0:35、1:03)よね。あれを入れたとき、シンプルすぎるほどにシンプルだったこの曲のあり方がふっと変わって、雰囲気を決定づけた気がしたよ!
09. As a friend
楽器13と呼ばれていた。
この曲がいちばん明確な目的を持って作られた曲だと思う。アルバムの説明に書いていた"実演を模した"というのは主にはこの曲のことだ。友達と三重奏をする。ピッチが甘い。間違える。相手の出方を伺う。相手が止まったらそれに合わせる。再開するときも呼吸を合わせて。
制作中にメモしていたテーマには、"楽器/ミスタッチ/微分音/ファイト"と書いてあった。打ち込みでミスタッチの再現を試みつつ、ピッチをずらし、音量を不安定にし、テンポも推移させた。"ファイト"というのは3人とも頑張って弾いているということだろう、友達として。
聞いている人に一緒にハラハラしてほしい、頑張って……!と思ってほしい、と思って作ったのだが、何度か聞いていると、そういう曲としてすんなり聞こえてくる。
弾いていて間違えたときの感覚がわかるのは、ピアノだけだ。ピアノだけは弾いたことがあるため。あと2つ、バイオリンとフルートは弾いたこと/吹いたことがないため、演奏を間違えるとどんな感じ感覚なのか、またどういうタイプの間違いがあるのかもはっきりとは知らない。
10. gym
楽器12と呼ばれていた。
こちらはもう普通に「よし、四つ打ちだ」と思って作った。基本的には、俺は四つ打ちに親近感がなく、ここ1、2年でやっとぼんやりわかってきた気がする。制作中のプレビューで、圧倒的に手放しでノリノリになれるのが四つ打ちのいいところかもしれない。作っていて楽しかった。
広く反響する、人の集う場所で流れているイメージがあったので、マスターにリバーブをかけた。(こんなにマスターに色々していていいんだろうか。ダメなのかもしれない。ちょっとわからない。そんな感じの不安は抱いたものの、広い場所でかかっている以上、空間にある以上、反響してしまうのは仕方ないから、絶対にマスターにリバーブをかけます。かけるというか、かかってしまうのです。という強い決意を持って、かけた。この曲がどこかの空間で流れるとき、入れ子構造になる。)そういう意味の「gym」と、単純に勇ましく戦っていそうな感じもあるので、ボクシングとか、そういう意味の「gym」でもある。
それがメイン扱いになっているM.11、14以外で唯一、うっすらと人の声(俺の。歌ってはいるが、ボーカルというよりは声。)が入っている。
ループに関するツイートは、この曲のことでもある。基本形をループしつつ少しずつ形を変えていくのは面白いというもはや原体験みたいな種類の発見があった。歌ものを作ろうとしているとあまり考えないことだ。
音楽的にはわからないが、感覚的には、昔に外国の誰かが作った全然知らない曲という感じがする。これこそ流れている曲であって、とにかく自分で作った感じはあまりしないのだ。Shazamしちゃうかもしれない。
11. 夜の運転
諭吉佳作/men - 夜の運転 (Music Video)
サンプル3と呼ばれていた。M.7-10のオーディオがサンプリングされている。
自分のボーカルを素材にして使いたかった。"運転シリーズ"には、ほぼ共通のクリック・リズムトラックの抜き差しと、既存曲のオーディオのみで作るという縛りがあったはずだったが、この曲ではどうしてもボーカルを足したかったので、その時点で色々となあなあになっている。新しくベースも足したし、リズムもちょっと足してしまった!
この曲では、主には、1曲前のM.10「gym」がコードとして通底して使われているが、逆に、M.7「そこで目が合う」はごく一部にしか出てこない。M.8「チャットのリズム」の例の「ンーガッ」の質感を、この曲のリズムパターンと合わせて、とても気持ちいい物体イメージを作れたと思っていて、満足している。
12. 閉経や夢
楽器8と呼ばれていた。
これもほとんど癖(無意識、習慣という意味)で作った曲だ。ドラムのこういう音が大好きで大好きでたまらない。ピアノの音も大好きだ。3:24〜の3拍ずつのかたまりをずらしていくのも大好きだ。ただ本当に癖なので、それだけだ。結果的に、草原で眠っているようなイメージ。眠りのイメージはどんな曲にも常にあるかもしれない。特に言うことがない……。
あ、ディレイだ。俺はそういえば、ディレイもあまり好きじゃなかった。なぜ?先述の通りオートメーションの管理が嫌だったからというのはあるけれども、音のことで言うと、うーん。まず以前の自分にとっては音質を変更するもののほうが入り用だった。どちらかというとパキッとしたものが好きで、ナヨナヨしたものが嫌だったので、同じ音がそっくり繰り返される(極論)割にはだんだん薄くなっていって最後には消える、なんていうのが嫌だった。それは他者の音楽がそうなっている分にはまったく気にならない。そういうものだから。しかし自分がわざわざやるのは気持ち悪かった。なのに、このアルバムでははっきりそれとわかるようなことをしている。レイヤーになる、重複する、あぶれるというような従来とはまた別の物理的なイメージを抱けるようになったからかもしれない。インストだからというのも大きいのかもしれない。結局、歌ものらしい歌ものを作るとき、唯一ボーカルには不可侵であるのに対して、他の楽器にならどんな大袈裟な処置を施してもいい、みたいな乖離に胸を痛めかけていた。リバーブに関しては今も、ちっともかけないかかけすぎるかの2択しか、進んで扱いたくはない。
13. Stunt in sleep
諭吉佳作/men - Stunt in sleep (Audio Visualizer)
楽器7と呼ばれていた。
最初の5拍子のパートはだいぶ前から作られていた。ボーカルを乗せなければと思っていたためか制作が進まず、放置されていたが、今回インストを作ることになって掘り起こしてきた。
インストゥルメンタルという前提のまま、J-POP的な展開を採用している曲のひとつかなと思う。サビとも言えるメロディのあるパートでは拍が受け取りやすい数に変化し、それから再び5拍子に戻ったときにはよりそのリズムがファニーに聞こえる。
この曲では、前述とはまた別の、ボーカルにかけるプラグインをマスターにかけていて、それがこの曲全体のうにょうにょしたピッチを作っている。こういうのは、当事者の思い込みがないとできないなと思う。会社にいたときなんかにも実際にあったが、他者からすると「なぜわざわざそうするのか、絶対にするなとは言わないが、別にしなくてもよいのでは」と思うようなところに、当事者は妙なこだわりを見せることがある。そしてそれは数年後の当事者にとっては、なぜ自分はそんなことにこだわっていたのかと思うような些事であったりする気もする。
こういった、短音がころころと連なるような曲は俺が元来好きなもの、という感じがする。
(追記)「夜の運転」と「保留音」以外でボーカルが入っているのは「gym」が唯一と書いていたが、これにも入っていた!!!うっっすらと。
14. 保留音
諭吉佳作/men - 保留音 (Audio Visualizer)
楽器9と呼ばれていた。
これは声を2/4拍、1本だけ録音して、あとは全部ピッチをいじって和声としている。たしかに声であるものが、単なる音になってきて、それがどこから出たかということが無関係になっていくようなイメージがある。俺がたまにやる趣味として、録音とか音楽とか関係なく、音程や音量などの質を変えずに続く音というのを意識して、口から声を出して、自分の声が音に聞こえるようになるまで待つ、みたいなのがあるのだが、それに近いのかな?どうだろう。今思っただけだから意識して作ったわけではないけれど。
保留音という題がついたのは完成した後だが、それによってこの曲の目的?あり方?がはっきりした気がする。
15. first time
楽器11と呼ばれていた。
せっかくだから1曲くらい、エレキギターかエレキベース的な音が入った曲を作りたいなと思ってできた曲。のわりには、0:33から入ってくるメロディはバイオリンの音源をギターのアンプから出したもの。たぶんおれがそれを他人の曲として聞いたら、バイオリンの音とは思わないと思う。実際には0:51からのパートと、1:19からのパートで、エレキギター、エレキベースを使った。プロジェクトを見返したら、1:19からのハープみたいな高い弦楽器の音もエレキベースだった。作った本人でも、やっぱり見ないと思い出せないこともあるらしい。
エレキギターの音は他の何よりも打ち込みで再現(?)しようがないから使わない!と固く決めて(というより諦めて?)いた時期もあったのだが、近年はよく使う。余談だが、俺にはなぜかバンドサウンド(?)の曲のストック(?)がある。
16. ホールド、そして運転
サンプル2と呼ばれていた。
M.1、12-15のオーディオがサンプリングされている。主に、ぱっと聞いてわかるものとしては、M.1「不注意を払う」とM.13「Stunt in sleep」のメロディが使われている。特に出だしの「不注意を払う」はキーを変えずに使われているので、聞いた感じもかなりそのままであるが、それらサンプルが全編通して3拍子に整えられている。
4拍子の曲を3拍子に組み替えていくのはまったく難しくないが、(ざっくりと)2音目を前に寄せるか後ろに寄せるかだったり、ここでキメを作ってみようみたいなちょっとした遊びで、ずっとやっていられる。
なにより俺は、オーディオのキーを後から下げたときのフォルマントも一緒に下がった感じの質感が本当に大好きで、後半の「Stunt in sleep」の音だけでいいと思えるほどだ。
タイトルは、ダンスのこと。
M.1「不注意を払う」の配置が"運転シリーズ"とそれ以外の曲順のルールにとって例外なのは、この曲に含まれているとはいえ、やはりどうしても先頭になることしか考えられなかったからだ。またこの曲が最後に流れるのも、この曲が「不注意を払う」のメロディを含むことから、リピート再生したとき自然に1曲目の「不注意を払う」に還ってくるようにという意図だった。でも本当は、俺はこの曲がマジですごーく好きなので、もうちょっと早めの順番に置きたかった。収録曲の多いアルバムというのは大抵、収録順が後ろであるほど聞かれないからだ。でも矜持が勝った。でも全然、シャッフル再生とかしてもらって、構わない。
とりあえず曲について、メモということで、置いておく。